《キリスト教式葬儀とは?》
(画像:pixta)
日本で行われる葬儀のほとんどが仏式ですが、キリスト教式の葬儀に参加したときに、葬儀の中で歌が歌われることにびっくりした人もいるのではないでしょうか。
葬儀だけでなく結婚式や日曜礼拝など、キリスト教の集いや典礼には歌が欠かせません。日本でのキリスト教はカトリックとプロテスタントに大別されますが、一般的にカトリックでは「聖歌」、プロテスタントでは「讃美歌」と呼んでいます。
この記事では、聖歌や讃美歌について説明します。葬儀でよく歌われる曲も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
《なぜ聖歌や讃美歌を歌うのか》
(画像:pixta)
讃美歌は神をほめたたえる歌です。旧約聖書には次のように書かれています。
「命のある限り、わたしは主を讃美し、長らえる限りわたしの神にほめ歌をうたおう。(詩編146:2)」
このように、キリスト教では神への感謝を歌にのせて表現します。葬儀の際には、故人が天国で新しい命を与えられることに対しての感謝と喜びを表すと同時に、遺族に安らぎを与えるといった意味を持ちます。
《聖歌と讃美歌の違い》
「讃美歌」は主にプロテスタントでの呼び方で、カトリックや聖公会などでは「聖歌」と呼ばれています。そのため、葬儀の式次第に「聖歌」と記されていればカトリック、「讃美歌」と記されていればプロテスタントといったように、ざっくりと判断できます。
時折、聖歌でも讃美歌でもなく「新聖歌」と記されていることがあり、不思議に感じる人もいるかもしれません。新聖歌とは、聖歌・讃美歌を集めて新しく編集され、2001年に出版された歌集のことをいいます。主にプロテスタントで使用される歌集です。
《聖歌とは》
聖歌は宗教改革以降、教会に集まった人々が一緒に歌うことを目的として編集された歌集とのことで、カトリックや聖公会などで歌われています。古くからカトリック教会にてラテン語で歌われていた宗教歌です。もともとは全員で歌うのではなく、聖歌隊が歌い、会衆はそれを聴くというスタイルでした。楽器の伴奏はなく、祈りの言葉を音楽的に歌うもので、グレゴリオ聖歌やビザンチン聖歌などが有名です。近年は日本でつくられた典礼聖歌も広く歌われています。
《讃美歌とは》
讃美歌は、16世紀の宗教革命から生まれた宗教歌です。宗教改革の中心人物だった神学者マルティン・ルターは、「民衆が自分たちの言葉で神への祈りを歌えるように」と、ドイツ語で讃美歌(コラール)を作りました。
ルターが作詞作曲した讃美歌の中で代表的なものには「ちからなる神はわが強きやぐら(讃美歌450番)」「み言葉によりて(讃美歌240番)」「天にいます父は(讃美歌364番)」などがあります。
《葬儀で歌うときのポイント》
(画像:pixta)
初めてキリスト教式の葬儀に参列する人の多くは、「知らないから歌えない」と不安になるでしょう。まず、歌詞は式次第などに印刷されているので、歌詞を見てメロディを聴いてみてください。2番、3番と聴いているうちに何となく歌えるようになります。ハミングだけでも構いません。無理に歌う必要はありませんが、歌えるようであれば故人を想いながら歌ってみましょう。
《キリスト教式の葬儀でよく歌われている曲》
最後に、キリスト教式の葬儀でよく歌われている聖歌と讃美歌を紹介します。もしかしたら聞き覚えのある曲が含まれているかもしれません。キリスト教の葬儀に参列する機会があれば、参考にしてみてください。
・いつくしみ深き
「いつくしみ深き(聖歌657番/讃美歌312番)」は、キリスト教の葬儀で歌われることの多い歌です。小学生の頃、「星の世界」という歌を歌ったことがないでしょうか。その原曲が、この「いつくしみ深き」です。悲しいことや苦しいことがあっても、救い主イエス・キリストが受け止め、憐れみや慰めを与えてくれることに感謝しようといった内容の歌です。ちなみに、この歌は、キリスト教の結婚式でもよく歌われます。
・神ともにいまして
アメリカの牧師ジェレミア・ランキンが作詞した「神ともにいまして(讃美歌405番)」は、葬儀以外にも別れのシーンでよく歌われる有名な讃美歌です。葬儀では、天国へ旅立つ故人を神が守ってくれるよう、そしていずれ復活したときには再会しようという願いを込めて歌われます。
ランキン牧師は、「good-bye(さようなら)」の語源が「God Be with You(神があなたとともにありますように)」だということにヒントを得て、詞を書きあげたといわれています。
・主よみもとに近づかん
1997年に公開され、日本でも大ヒットした映画「タイタニック」をご存知でしょうか。沈みゆく船上で、乗客たちの気持ちを落ち着かせようと演奏を続けていた弦楽四重奏団が、自分たちの死を覚悟し、最後に演奏したのが「主よみもとに近づかん(聖歌658番/讃美歌320番)」でした。
死を目前にした人が、神を信頼し、天国への希望を抱くという内容の歌詞です。アニメ「フランダースの犬」でも、主人公の少年ネロと愛犬パトラッシュが亡くなるシーンで、この曲が流れています。
・おどろくばかりの
「おどろくばかりの(聖歌229番)」は、世界中で多くの歌手に歌われ、映画やドラマの主題歌・挿入歌、CMなどにもよく使われる、とても有名な曲です。「アメイジング・グレイス」といったほうが分かりやすいかもしれません。
18世紀のイギリスで、奴隷貿易の船長だったジョン・ニュートンが作詞したといわれています。航海中の嵐で死に直面して奇跡的に助かった彼は、のちに牧師になります。
・まもなくかなたの
「まもなくかなたの(聖歌687番)」は、新しいエルサレムで再会しましょうという内容の歌です。エルサレムは、中東イスラエルに実在する都市で、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地と呼ばれています。しかし、ここでいうエルサレムは、実在する都市を指しているのではありません。新約聖書のヨハネの黙示録に登場する言葉で、神の都を象徴しています。「いつの日か神の都でまた会いましょう」という歌詞のため、葬儀によく使われています。
《故人を想うことが大切》
カトリックでもプロテスタントでも、キリスト教式の典礼では参列者全員で聖歌・讃美歌を歌います。歌が苦手、歌を知らないなどの理由で、歌う前から身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、信者ではない人も多く参列する葬儀や結婚式では、広く知られた曲が用いられます。もしも聴き覚えのある曲だったら、ハミングでもよいので参加してみましょう。葬儀で聖歌や讃美歌を歌うときは、上手・下手ではなく、故人を想って歌うことがもっとも大切なのです。